取材記事

車椅子視点で街のバリアを体験、その気づきを地図に反映するまち歩きイベント開催

車椅子視点で街のバリアを体験、その気づきを地図に反映するまち歩きイベント開催

東京で初開催、車椅子視点のDiversMapルート収集イベント

2025年10月18日、Divers Projectは東京大学本郷キャンパスにて、「第20回DiversMap ルート集め まち歩きイベント」を開催した。東京での開催は今回が初めてとなる。Divers Projectについては、「誰もが安心して街を歩けるように。バリアフリーな社会の実現に向けたバリアフリールート共有アプリ『DiversMap』の取り組み」(https://www.walkingspacedx.go.jp/post-1394/)としてすでに紹介した。今回は同プロジェクトの活動として進めるまち歩きイベントの模様を報告する。


本イベントは、最初にオープニングとしてプロジェクトの趣旨やまち歩きの方法が解説され、その後参加者は3グループに分かれ本郷キャンパス内を車椅子で歩いた。その後グループごとにワークショップに取り組んだ。

オープニングでは、まずDivers Project代表の内山大輔氏が、今回のまち歩きの目的について、「東京大学本郷キャンパス内で、参加者が実際に車椅子に乗って移動を体験することだ」と説明した。普段車椅子を利用しない参加者にも車椅子に乗ってもらい、車椅子利用者が直面する課題を実感してもらうことが狙いだ。

街の中にある2つのバリア

次に、共同主催者としてJST SOLVE for SDGsの高取千佳東京大学准教授が解説を行った。高取准教授は、「JST SOLVE for SDGS 移動困難者の回遊・交流・社会参加を実現する公共空間マネジメントDXプラットフォームのシナリオ創出」のプロジェクト(https://www.jst.go.jp/ristex/solve/project/scenario/scenario23_takatoripj.html)の代表を務め、車椅子やベビーカーの方のためのルート検索アプリを開発している。

高取准教授は、参加者に対して本郷キャンパス内を車椅子に乗って巡ってもらうことの意義を語った。自身も前日に車椅子を運ぶ中で、安田講堂前の路面状態の悪さに驚いたという。「心が折れるぐらい、キャンパスがそんなにバリアだらけだったのかとびっくりした」と率直な感想を述べたうえで、参加者には通りやすい道と通りにくい道を実際に体験して見つけてきてほしいと呼びかけた。

高取准教授は、街の中にあるバリアを2つの観点から説明した。1つ目は「体のバリア」である。「路面の凹凸や段差など、普段歩く目線では気づかないような多くのバリアが街中には隠されている。これらを車椅子の目線から体験してほしい」と述べた。2つ目は「心のバリア」である。高取准教授はこちらをより大きな問題だと指摘。車椅子に乗っていると道を塞いでしまって申し訳ないと感じたり、通行人が車椅子利用者に声をかけたいが迷惑と思われるのではないかと躊躇したりする。こうした心理的なバリアも、街の回遊を妨げる要因となっているという。さらに、社会参加の場面でも、車椅子で参加しようとしたイベントが車椅子に対応できておらず、主催者と車椅子利用者の双方が気まずい思いをするといった多様なバリアが存在すると説明した。

SOLVEプロジェクトでは、街中のバリアをセンサーで自動的に抽出していく取り組みを進めている。今回参加者が乗る車椅子には、Code for Kitakyushuが3Dプリンターで製作した特別な装置が取り付けられている。この装置には加速度センサーと位置情報を取得できるセンサーが搭載されており、路面の凹凸、段差、傾斜度などが時々刻々と取得され、パソコンに転送されて蓄積されていく仕組みだ。

これまでの装置では位置情報の誤差が約10メートルあり、正確な測定が難しかった。しかし今回から、日本が運用する準天頂衛星システム「みちびき」の電波を受信することで、誤差を1.5メートルまで縮め、より正確なデータを取得できるようになった。参加者が取得したデータは後日フィードバックし、実際に乗った体感とデータを照らし合わせて確認する予定とのことだ。

SOLVEプロジェクトのセンシング装置。車椅子の振動・加速度や位置情報を検知する。

歩行空間ネットワークデータのオープン化で民間サービスを後押し

さらに、今回のイベントを後援する国土交通省の政策統括官付 伊藤加奈氏が、同省が推進する歩行空間における移動支援サービスの普及・高度化の取り組みについて説明した。国土交通省は「誰もが自律的に安心して移動できる社会」をデジタルの力で実現することを目指している。歩行空間ネットワークデータやバリアフリートイレのデータなどをオープンデータ化することで、民間事業者等が段差を避けたルート案内やバリアフリー施設の検索サービスを提供できる環境の構築に向け取り組んでいる。

伊藤氏は、「ハード対策には多くの時間や費用がかかるため、オープンデータ化するソフト対策によって移動支援サービスの早期実現を目指している」と解説。この取り組みは2004年に開始され、2015年以降はオープンデータ化を推進。歩行空間ネットワークデータは、幅員、縦断勾配、段差をランク区分で表現し、将来的にはモビリティの走行軌跡から自動更新できる可能性も見込んでいる。今回のイベントで取得されるセンサーデータが、歩行空間ネットワークデータのデータ更新に役立つことへの期待を示した。

キャンパス内のまち歩き体験

今回のキャンパス内のまち歩きでは、特定のルートは決めずに、東京大学本郷キャンパスのバリアフリーマップを参考にしながら、各グループで回りたい場所を自由に選んで巡る形式となった。高取准教授からは、特にバリアが多い場所を選んで体験することが推奨された。具体的には、安田講堂、三四郎池、赤門付近、医学部などが候補として挙げられた。また、大学外の本郷通り沿いについても、バリアフリーマップにおいて車椅子で出られるとされている正門や懐徳門から出て巡ることも提案された。

内山氏は、画像を使って通りやすい道と通りにくい道の例を示した。通りやすい道の条件として、道幅が2メートル以上あること、街灯があって明るいこと、アスファルトが剥がれていないこと、段差や傾斜がないこと、信号付きの交差点があることなどを挙げた。一方で、通りにくい道の例としては、街灯や店の灯りがなく暗い道、坂がある道、道幅が狭い道、また道自体は広くても人が多すぎて車椅子やベビーカーでは通行しづらい場所などを示した。

続いて参加者は、3グループに分かれ交代で車椅子に乗りながら本郷キャンパス内を巡った。当日、たまたま「ホームカミングデイ 銀杏祭」が開催されており、一部のエリアには出店が並び多くの卒業生が集っていた。そのため、人混みの中を車椅子で移動することも体験できた。

グループに分かれてキャンパス内を車椅子で巡る様子

ワークショップとグループ発表

参加者はキャンパスから戻った後、ワークショップ形式でA3サイズの地図を使い、実際に通行して感じたバリアを線で描いたり、付箋に書いて貼ったりしながら、グループで体験を共有し、グループごとの発表の準備をした。

ワークショップの一幕。積極的な議論が交わされた。

各グループの発表内容を紹介していこう。

グループ1:推奨ルートの明示と施設情報の充実を

グループ1は、正門から本郷通りに出て赤門を過ぎた後、三四郎池や安田講堂周辺を巡るルートを選択した。人混みでの移動の大変さや、石畳など舗装の種類によって通りやすさが大きく異なることを実感したという。

具体的な改善提案として、まず現在のバリアフリーマップには坂道や段差の位置は記載されているものの、車椅子利用者向けの推奨ルートが明示されていない点が指摘された。また、各施設の入口やエレベーターが車椅子で通行可能かどうか、入口が自動ドアか階段かといった詳細情報をマップに盛り込むべきだとされた。

データ提供方法については、PDFや紙に加えてオンライン化し、写真と組み合わせることで傾斜の程度を視覚的に理解できるようにすることが提案された。さらに、バリアは日々変化するため、人通りの多い道など優先順位をつけて更新していく必要性も指摘された。

高取准教授からは、国土交通省が整備する歩行空間ネットワークデータとの連携についても言及があり、「議論がいろいろな方向に広がるなか、欲しい情報についての貴重なアイディアをまとめていただいた」と評価した。

グループ2:ハードとソフトの両面から解決策

グループ2は、11号館から赤門を通り、三四郎池方面へ向かって一周するルートを選択した。環境整備が十分に行き届いていない箇所が多く、意匠デザインのバンプや三四郎池・安田講堂周辺の急な坂道が車椅子での通行を困難にしていると報告された。

ハード面での解決策として、石畳を平らにすることでデザイン性を維持しつつ通りやすくすることや、排水のために中央が盛り上がっている道路を吸水性アスファルトで平らにすることが提案された。

ソフト面では、アプリを活用した解決策が示された。ホームカミングデイの人混みを体験したことから、リアルタイムで混雑情報を表示する機能が提案された。また、ルートによって上級者向けや初級者向けといった特性があることから、各ルートの難易度を表示し、利用者が自身の状況に応じて選択できる仕組みが望ましいとされた。

高取准教授は、「ハードとソフトの両面から本郷キャンパスの特性を読み解いた、実用性の高い提案」だと評価した。

グループ3:個人の体験を共有できるマイマップ機能を

グループ3は、11号館から安田講堂前を経由し、赤門付近を回るルートを選択した。発表者は実際に車椅子を漕いだ体験を語り、安田講堂前の石畳が非常にゴツゴツしており、人の視線も感じる中での移動は心理的な負担も大きかったという。歴史的建造物周辺の改修は難しいため、写真でイメージできるマップがあれば事前に状況を把握できると提案した。

グループ3が特に強調したのは、マップ上で情報が記載されていない箇所にも実際にはバリアが存在するという点だった。横方向に傾斜がある場所など、微細なバリアは実際に歩いてみないと分からない。そのため、写真や補足情報の追加が必要だと指摘された。さらに、自分が実際に歩いた中で最も歩きやすかったルートをアプリ上で記録し、その他の利用者が参考にできる仕組みが提案された。

高取准教授は、「主観的に大変だと感じるところをデータとして分析していく視点はとても大事な視点だ」と評価した。

各グループの発表の様子

おわりに

今回のまち歩きイベントでは、参加者が車椅子に乗り、東京大学本郷キャンパスを巡りながら、普段は気づきにくい段差や傾斜、路面の凹凸、人の動きといった多様なバリアを身体感覚として捉えた。各グループの議論からは、単なる物理的障害だけでなく、視線やためらいといった心理的バリアの存在が共有され、参加者は、移動をめぐる課題が多層的であることを実感した。

取得した測定データと体験を組み合わせることで、バリアフリー情報の更新や、利用者に最適化したルート案内の可能性も広がる。今回のイベントは、Divers ProjectとJST-SOLVEの共同開催に国土交通省が後援として参画する形で実現したが、そこではセンサーデータの活用と歩行空間ネットワークデータとの連携可能性が示され、官民学が協力することの有効性を参加者が直接感じ取る場にもなった。

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