取材記事

物流の人手不足を解消する自動配送ロボットはいつ街を走るようになる?ティアフォーの岡崎さんに聞いてみた

物流の人手不足を解消する自動配送ロボットはいつ街を走るようになる?ティアフォーの岡崎さんに聞いてみた

2023年4月1日に改正道路交通法が施行され、人が遠隔監視する自動配送ロボット(物流拠点や小売店舗などの荷物・商品を配送するロボット)の公道走行が解禁されました。これにより、自動配送ロボットを使った宅配をはじめとするサービス実用化へ向けて、企業各社が社会実装の動きを活発にさせています。

自動配送ロボットが走行するのは歩行者と同じ歩道や路側帯となっており、安全に走らせるためには、段差や傾斜などの詳細な経路情報が不可欠です。国土交通省ではそういった情報を収集した「歩行空間ネットワークデータ」のオープンデータ化を推進しており、自動配送ロボットの開発・運用に役立てられるのではないかと検討を進めています。

ティアフォーの岡崎慎一郎さん

今回は、「歩行空間ネットワークデータ」を実際に活用して自動配送ロボットの実証実験を行った株式会社ティアフォー(TIER Ⅳ)Vice President 岡崎慎一郎さんに、今後重要性を増すだろう「歩行空間ネットワークデータ」というオープンデータの可能性や、自動配送ロボットを取り巻く現状についてお聞きしました。


国土交通省では、高齢者や障害者をはじめ誰もが暮らしやすいユニバーサル社会の構築のため、環境整備だけではなく、ICT(情報通信技術)を活用した歩行者移動支援サービスの普及促進にも取り組んでいます。

その一環として、歩行空間における段差や傾斜、エレベーターの位置情報といったバリア&バリアフリー情報を収集。誰でも無料で利用できるオープンデータ「歩行空間ネットワークデータ」として、ナビゲーションアプリなどさまざまな分野で活用することを目的に各種事業を推進しています。

この「歩行空間ネットワークデータ」を、深刻な人手不足や2024年問題に悩む物流業界でニーズが高まっている自動配送ロボットの走行にも応用できるのではないかという期待から、その親和性や必要なデータを検証すべく、国土交通省は2022年、東京都北区赤羽地区にて自動配送の実証実験を実施しました。

この実験でオペレーションを担当したのがティアフォーです。

同社はさまざまな組織や個人が自動運転技術の発展に貢献できるエコシステムの構築を目指し、世界初のオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」の開発をリード。また、「Autoware」を利用した自動車やバス、ロボットなど自動運転モビリティの開発を行い、無人物流・旅客サービスなどに関するさまざまなビジネスをサポートしています。

FORRO

実験で使用されたのは、同社が川崎重工業と共同開発した自動配送ロボット「FORRO(フォーロ)公道向けモデル」。小型の4輪ロボットで、80サイズ段ボールが7個入る大きな荷室容量をもっています。ハードウェアには川崎重工業がモーターサイクル開発で培った技術が使われており、ある程度の段差や未舗装の道路でも走行可能な足回りの強さが特長です。

自動運転には、運行経路の3次元地図データと車両のセンサーから得られるスキャンデータをリアルタイムでマッチングさせる必要があります。

そのため、赤羽駅前のコンビニエンスストアから800mほど離れたヌーヴェル赤羽台まで自動配送するという想定で、まず「歩行空間ネットワークデータ」で運行経路を選定。監視・操作要員を随行させてFORROを走らせながら、車両に搭載されたLiDAR(レーザーを使った測定センサー)で周囲の3Dデータを取得し、より正確な幅員や段差の調査が行われました。

実証実験の様子

実際の自動走行の実験では、取得した3Dデータから作成した高精度の3次元地図データを用いて、対象のルートを問題なく走行することができました。

ロボットとエレベーターを連携させ、エレベーターを呼んだり、目的階を指定したりするなどの実験も実施

この実験を担当したティアフォーの岡崎さんは、自動配送ロボットと「歩行空間ネットワークデータ」には高い親和性があったと振り返ります。

岡崎さん:弊社としては、もともとは「バリアフリー」と「ロボット」をあまりつなげて考えていませんでした。しかし、実際に実験してみると、バリアフリーで論点になるような段差の有無や道の傾き、幅員というのは、自動配送ロボットの走行でも大事なポイントですので、「歩行空間ネットワークデータ」との親和性は想像以上にとても高かった印象です。「歩行空間ネットワークデータ」の情報でルートを選定しましたが、実際に走行させてみても大きな問題はありませんでした。

「歩行空間ネットワークデータ」だけで自動配送ロボットを動かせるというわけではありませんが、今回の実験のように「この場所を本当に走行できるのか」を事前に検証するタイミングでは役に立つデータだなと感じています。今だとGoogleマップやストリートビューなどで運行経路の目星をつけてから現地に行って、走行できるのかを検証することもありますが、「歩行空間ネットワークデータ」で段差や幅員がわかっていれば、現地に行かなくてもある程度の検証ができるので、時間・コストの削減が可能になるでしょう。

そう話す岡崎さんは、「歩行空間ネットワークデータ」にさらに詳細なバリア&バリアフリー情報を充実させていってほしいと期待を寄せます。

岡崎さん:データは細かければ細かいほどありがたいです。例えば今回走行させた車両の場合、5cmの段差が乗り越えられるギリギリのラインなのですが、そのくらい厳密なデータがあると非常に助かりますね。

また可能であれば、時間帯ごとの人通りの多さや、工事などの一時的に発生している動的な情報なども将来的にオープンデータとして扱われるようになると、より便利になるのでは。自動配送ロボットと連携すれば、臨機応変にルートを変更するといった使い方もできるかと思います。

人通りの多さなども、自動配送ロボットを走行させるうえで欠かせない情報

オープンデータといえば、ティアフォーでもオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導しており、「Autoware」は20カ国以上、500社以上の企業で使われているといいます。

貴重な技術をなぜ無料で共有するのか。そこには「いろいろなものをオープンにすることで技術が普及し、必要なものを必要な人のところへ早く届けられるようにしたい」という思いがあると話します。

岡崎さん:弊社のソフトウェアは、「このロボットじゃないとダメ」とか「この車じゃないと動かない」とか、車両固定の技術ではありません。どんな車両でも利用可能な汎用的なソフトウェアで、いろいろなロボットに対して広く提供していけるので、そこが私たちの強みでもあります。

無償で「Autoware」を提供していますが、提供した企業からフィードバックをもらいながら、より良い形にアップデートを続けています。それは、情報をオープンにしてみんなで取り組んだほうが、いち早く問題が解決し、革新的な技術が生まれると考えているからです。人手不足や2024年問題を抱える日本では特に必要なことだと感じていますし、自動配送ロボットのサービス実用化を早く実現できるように貢献していきたいという気持ちがあります。

それでいうと、各企業で共通して使えそうなデータはオープンデータとして共有できる形にしてもらえるといいなと思います。たとえば地図データはその一例ですね。自動運転ロボットでは3次元地図データ(場合によっては2次元地図データ)が不可欠ですが、各企業が独自に地図データを作成するために多大なコストと時間をかけています。しかし、地図データ自体は企業としてもクローズドで作成するメリットが少ない部分です。反対に、どこのエリアによく配送が行くのかとか、どのお店から配送が出てくるのかといった情報は完全に競争領域ですね。

なので、地図データのような差が出にくい部分はオープンデータとして「歩行空間ネットワークデータ」のように整備してもらえたら、自動配送ロボットの早期の社会実装という面ではメリットは大きいと思います。

続けて、自動配送ロボットの現在についてもお聞きしました。

2023年4月に改正道路交通法が施行され、自動配送ロボットはロボットデリバリー協会が実施する安全基準の適合検査に合格し、かつ該当の公道を管轄する都道府県公安委員会に届出をすれば公道走行が可能になりました。警察署長からの許可制だった以前より、企業の参入のハードルは下がったといえるでしょう。

自動配送ロボットは「遠隔操作型小型車」と分類され、要件は細かく決まっていますが、主だったところでは次のようになっています。

【車体の大きさ】
・長さ120×幅70×高さ120cm以下

 【車体構造】
・原動機として、電動機を用いること
・時速6kmを超える速度を出せないこと
・歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと

【その他】
・歩行者と同様に歩道や路側帯、道路右端で走行し、歩行者に進路を譲らなければならない

イメージとしては、既存の電動車イスを想像すると分かりやすいでしょう。

1人の監視員が複数台を監視、緊急時のみ人間が介入する形で運行できるため、人件費の削減が期待されています。

公道走行が解禁されたと聞いて、「そのわりには街中で自動配送ロボットが活躍する姿をまだ見ていないぞ」と不思議に思った方もいるかもしれません。実は、日本で初めて自動配送ロボットの届出が出され、それが受付けられたのは施行から約4か月がたった2023年7月31日と、まだ日が浅いのです。

パナソニック ホールディングス株式会社が神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウンにて自動配送ロボットの実証サービスをスタートしたのが第1号になりました。これまで同地での実証実験で提供してきたロボット配送サービスをベースに、周辺地域の食材や食品などを家庭に届けるといいます。

現状について、「自動で決められたルートを走行したり、障害物を避けたりといった基本的な機能は、すでに問題なくクリアしている企業が多いはずです」と話す岡崎さん。「現在は各企業がエッジケース(想定外の出来事)への細かな対応の最終調整をしている段階です」と続けます。

岡崎さん:実際に公道を走らせてみないと気づかないエッジケースも多いですし、あらゆる状況を想定して、安全策を講じていく必要があります。

また、自動配送ロボットを遠隔監視して、例えば障害物があってスタック(立ち往生すること)した場合、人が操作して解消するのか、全てのエッジケースに対してロボットだけで対応するのかといった問題もあります。どの程度人が介入するのか、そこは結構、各企業の思想があるかなと思いますし、その辺りの検証を今は進めている段階です。今年から来年にかけていくつかのモデル地域で実験的にサービスが始まっていき、そのあと徐々に日本各地にサービスが広がっていくと思います。

実際に自動配送ロボットを使ったサービスで、どの程度の省人化が可能になるのか、過疎地での収益化の問題など、継続的なサービス提供にはたくさんの課題がでてくることでしょう。しかし、まずは第1歩として現実にサービスが動き出したことを喜びたいと思います。
最後に、自動配送ロボットが実現する日本の未来像についてお聞きしました。

岡崎さん:日本は少子高齢化の国で今は物流の担い手がまだ存在しますがこれからどんどんその数が減っていくことが予想されています。そのとき、今より生活が不便になっていくのを「仕方がない」とみんなで理解して、その現実を受け入れる道もあると思います。しかし、自動配送ロボットのような新しい技術を使って問題を解消する道もありますスーパーで日用品を買って運んだり、宅配便を使ったりはもちろん、買い物に自分で行かなくてもよくなったことで、その時間を別のことに使うなど、より生活を豊かにする、新しいライフスタイルが生まれる可能性もあるわけです。

自動配送ロボットは生活を一変させるポテンシャルをもっていると感じますし、私としても、そういった世界の実現に向けて貢献できると面白いなと思っています。

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