
歩行空間ネットワークデータ(NWデータ)における効率的なデータ整備・更新実現のため、「簡易版歩行空間ネットワークデータ整備実証」が2024年11月21日に渋谷区で行われました。今回はその模様をレポートします。
歩行空間ナビゲーションデータプラットフォーム(ほこナビDP)はNWデータ、施設データおよび3次元地図を整備するシステムで構成される予定となっていますが、NWデータに関しては現地調査やデータ入力作業が必要になるため、時間・労力といった側面で効率化が強く求められます。
こうした現状を踏まえ、国土交通省は歩行空間における人・ロボットの円滑な移動の支援に向け、NWデータの整備・更新を効率的に実施できるよう、歩行空間ネットワークデータ整備仕様を改定しました。
整備仕様の改定のポイントは三つあり、一つ目は通行時の主なバリアとなる幅員・縦断勾配・段差に関する情報のみの確認とすることで、より効率的な整備・更新を可能とした点。
二つ目は電動車椅子や自動配送ロボット等の性能の違いも考慮することにより、歩行空間を利用する人のみならずロボットに対する活用も想定している点。
三つ目はランク区分の設定により、現地調査のみで実施してきた歩行空間ネットワークデータの整備・更新を、将来的にはモビリティ等の走行軌跡を活用して整備・更新ができるようにした点です。


改定版の整備仕様に基づいたデータ整備の効率化に関する検証、NWデータ整備システムの実運用を見据えた運用面の課題・改良点の抽出を目的として実証が行われました。
あらかじめ国土地理院の基盤地図を基に生成した形状データ(幅員・縦断勾配・段差などのバリアに関するデータが含まれない、ノード・リンクの形状だけを示すデータ。これまで「針金データ」と呼称していたもの)をタブレット端末のシステムに登録しておき、現地調査をしながら、その形状データに対して、幅員・縦断勾配・段差のそれぞれのランクをシステムに入力していくという流れでデータ整備が行われました。
実証当日は、まず実証の趣旨や現地調査の進め方、ノードやリンクの配置方法、ランク設定の方法、今回使用するシステムの操作方法に関して説明が行われた後、グループ毎にタブレット端末を用いたシステムの操作方法を確認。
その後に、実際にグループごとに実証エリアに移動して現地の調査とデータ入力(ランク設定、形状データ修正等)を行う、という流れで実施されました。



過年度、国土交通省事業にて、渋谷区のバリアフリー基本構想の重点整備地区のうち渋谷駅周辺や千駄ヶ谷駅周辺においてNWデータの整備が行われましたが、今回の実証ではNWデータの未整備エリアから実証エリアを選定。桜丘町など3つのエリアでNWデータの整備を行いました。





実証を行った後は、今回実際に現地調査にも参加した産業観光文化部 都市データ活用推進担当課長の加藤茜氏をはじめ、参加者から感想や意見が寄せられました。
「システムは非常に使いやすいが、計測に関しては、例えば、縦断勾配であれば対象の道路のうちどの部分の傾斜を測った方が良いのかなど、個人の主観に任せられている部分もあり、「本当にこれで良かったのかな?」と不安になることもあったので、できるだけ客観的な基準があったほうがいい」
「東京オリンピック以前と比べ、ノードやリンクの配置、ランク設定などをおこなうためのシステムは進歩しているが、現地での計測を伴うのはやはり労力が大きい。iPhone LiDARによる点群計測(撮影するだけで傾斜情報を取得)するようなサービスと連携することも今後重要になるのではないか」
「官民含め様々な主体が活用することを考えると、最初からランクだけで入力するのは逆に理解・活用しづらいのではないか。ランクの元となる、勾配・幅員・段差は第2層情報の数値の区切りと整合しているので、第2層情報として入力したものがシステム上はランクに変換される、あるいはその逆も自動で入力されるなどの方がよいのではないか。傾斜の度数と%の自動変換なども含め、情報入力者の負荷を減じるようにしてほしい」
また、「正しい情報」を整備するとして、それが「人のためなのか?ロボットのためなのか?」で手法や道筋も異なるのではないかという問いかけもありました。これに対して国土交通省は「道交法改正によって歩道を走行可能となったロボットのための環境整備という側面もありますが、もともとこのプロジェクトは「人のため」であり、その点は今後揺るぎません。そのために少しでも簡単に整備できる方法、そして他の分野への活用法を考えていきたい」と答えました。
国土交通省では今回の実証実験の結果を踏まえ、多くの観測者が入力したデータの正確性をどのように担保するか、また技術や予算を踏まえてNWデータでどの程度の「正確性」を実現するべきなのか、今後もワーキンググループにおける意見交換を通じて検討を進めていきたいとのことです。