取材記事

AI技術で歩行空間のデータ整備を加速。大阪府豊中市「バリアフリー施設等データ整備実証」レポート

AI技術で歩行空間のデータ整備を加速。大阪府豊中市「バリアフリー施設等データ整備実証」レポート

国土交通省が取り組む、歩行空間における移動支援サービスの普及・高度化の実現に向けた本施策の取組の一つとして、2025年11月26日・27日に大阪府豊中市・池田市において、「バリアフリー施設等データ整備実証」が実施されました。当日は市職員に加え、車椅子利用者を含めた市民ボランティアが参加。市内のバリアフリー施設を巡りながら、AI技術を活用したデータ整備支援ツール「バリアフリー施設等データ整備システム」のプロトタイプを用いたデータ整備を検討する初の実証となりました。

本稿では豊中市での実証の様子をレポートします。


国土交通省が開発を進める「ほこナビDP(歩行空間ナビゲーションデータプラットフォーム)」は、誰もが自律的に安心して移動できる包摂社会の実現へ向けて、歩行空間における移動支援サービスの提供に必要となる各種データ(歩行空間ネットワークデータ※、バリアフリー施設等データ、3次元地図データ等)の整備・管理・更新に活用するためのデータプラットフォームです。ICT(情報通信技術)の活用と、行政・民間事業者・市民など多様な主体の参画により、鮮度の高いデータをオープンデータとして公開し、全国的な利活用を促進することを目指しています。

※…ノード(点)とリンク(線)で構成される、段差や有効幅員、勾配などのバリア情報を含んだ歩行経路の空間配置及び歩行経路の状況を表すデータ。

歩行空間における移動支援サービスの提供に必要となる各種データのうち、バリアフリー施設等データは、主に「施設」「バリアフリー設備」の2種のデータで構成されています。

・「施設」…公共施設や観光施設、商業施設等の名称や位置情報、階数、設備の有無といった基本情報をまとめたデータ
・「バリアフリー設備」…施設内にあるバリアフリートイレ、バリアフリー対応エレベーター、車椅子使用者用駐車施設等、乳幼児用施設、出入口の詳細情報をまとめたデータ

その他、「施設」と「バリアフリー設備」の写真を示すデータとして「写真」データ、詳細な利用時間を示すデータとして「利用時間」データをそれぞれ整備するものです。

バリアフリー設備等データの構成図
「バリアフリー設備」データ(バリアフリートイレ)のデータ取得に関する資料。
車椅子やオストメイトへの対応、おむつ交換台の有無、ドアの形式など、細かく取得項目が設定されている。

これまでの取組みにおいては、バリアフリー施設等データの整備に多くの時間と労力を要することから、進捗が必ずしも十分とはいえない状況にありました。また、自治体や施設管理者等から提供されるデータについて、提供手段や内容、表現、定義等にばらつきがある点も課題となっていました。

こうした状況を踏まえ、国土交通省では、データの標準化を進めるとともに、多様な主体がデータの整備・更新およびオープンデータ化をより効率的に行える環境を目指し、バリアフリー施設等データ整備システムの構築を進めています。

PCでのバリアフリー施設等データ整備システムの編集画面(例:岡町駅)

本実証は、「歩行空間における移動支援サービスに関する現地事業」の実施主体として豊中市を選定。市職員と市民ボランティアをデータ整備者とし、バリアフリー施設等データ整備システムを用いて、その運用方針やシステム機能面の課題を検討するために実施されたものです。

研修の様子

午前の実証には豊中市職員が参加し、バリアフリー施設等データの構成やシステムの操作方法、現地調査における留意点等について研修を受けました。本実証では、豊中市がオープンデータとして公開している既存の施設データを、事前に事務局側でフォーマット変換を行い、システムに取込んでからスタートしています。取込みには生成AIが活用されており、参加者は実際にPCにてシステムを動かし、取込みデータが正しく反映されているかの確認や編集作業を体験しました。

PCでシステムを操作する参加者

午後の実証では、市民ボランティア6名も加わり、3チームに分かれてデータ整備の対象施設(豊中市役所第一庁舎・第二庁舎、地域共生センター西館・東館、岡町駅)を訪問。スマートフォンを用いてバリアフリー設備を撮影しながら、本実証の肝であるAI画像解析による設備自動抽出と、抽出した情報に基づくデータ整備を行いました。

現地調査の様子

写真撮影において求められるのは、利用者(障がい者等の当事者)がシステムを閲覧した際に、特定のバリアフリー設備の有無や状況を把握しやすい写真であること。また、AI画像解析で必要な情報を抽出しやすい写真であることも重要です。

そのため、設備の全体像と細部が分かるよう、複数の写真を組み合わせて撮影することが推奨されます。また、設備の内外に掲示されている注意書きや説明文などの文字情報、ピクトグラムといったサイン類についても、可能な限り写真に収めておくことが望まれます。一方で、プライバシー侵害のリスクを考慮し、人物や自動車のナンバープレートが写り込んだ写真は登録できない仕様となっています。

写真撮影の様子
写真撮影の様子
スマートフォン版システムの画像アップロード画面。
複数の画像を同時にアップロード、AI解析することが可能。

AI画像解析では、AIがどのように撮影された被写体を判断し情報を抽出しているのか、解析メモの形で表示されます。普段なかなか見ることのないAIの思考プロセスを、参加者は興味深そうに眺めていました。

AI画像解析の解析メモ
AI画像解析の結果を確認する参加者

抽出された情報はバリアフリー設備のデータに反映され、事実と異なる項目があれば手動で編集し、一連の作業が完了します。

なお、民間事業者(施設管理者)やボランティアの方々がコミュニケーションアプリ「LINE」を利用して、生成AIを活用した写真からの情報抽出や、対話式(チャット形式)でより簡易的にバリアフリー設備等データの閲覧・投稿(編集)をできる仕組みについても検討を進めています。

実際にデモンストレーションを行ったところで、この日の実証は終了。最後に実証のまとめとして、参加者へアンケートを実施しました。

バリアフリー施設等データ整備システムの操作性については、おおむね「分かりやすい」との評価が多く寄せられました。適切なレクチャーがあれば、専門的な知識を持たない市民ボランティアであっても円滑にデータ整備に取り組める点は、実運用に向けた有効性を示す結果といえます。

一方で写真撮影に関しては、「人通りの多い場所で撮影するとエラーになってしまう」「人物や自動車のナンバープレートを撮影不可とするのではなく、自動でモザイク処理を施す機能を追加できないか」「推奨される撮影方法をまとめたガイドを撮影画面に表示すれば、撮り直しの手間が軽減されるのではないか」など、改善を求める意見が寄せられました。また、「AI画像解析の処理時間が長く、AIが処理中なのか、あるいは停止しているのかを判別しにくい」という懸念の声も届いています。「AIの処理状況を明確にするため、『解析中』『現在〇枚目の写真を処理中』『進捗率(例:〇%完了)』等の表示があれば、ユーザーの不安感が軽減されるのではないか」と提案する参加者もおり、運用面での課題が浮き彫りとなりました。

アンケート回答の中には厳しい指摘もありましたが、バリアフリー施設等データ整備システムの利用促進に向けたPR施策や、学校等での啓発活動の提案など、今後の展開を見据えた意見も挙げられ、同システムに対する期待の高さがうかがえます。

本実証は、AI技術を活用した効率的なデータ整備手法として、「バリアフリー施設等データ整備システム」の一定の有用性が確認される結果となりました。より多様な主体が継続的にデータの整備・更新およびオープンデータ化に取り組めるシステムを構築するためには、利用者視点に立った改善を着実に積み重ねていくことが不可欠です。今回得られたフィードバックを踏まえ、今後も実証を重ねながら、実運用に向けたシステム構築を進めていきます。

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