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情報をつなぎ、共感の輪を広げる。誰もが移動をあきらめない世界を目指す「Universal MaaS」プロジェクト

情報をつなぎ、共感の輪を広げる。誰もが移動をあきらめない世界を目指す「Universal MaaS」プロジェクト

航空事業を中心としたエアライングループとして、国内外の航空ネットワークや顧客基盤を活かしながらさまざまな事業を展開する全日本空輸(ANA)。
ANAは現在、Universal MaaSの概念を提唱し、何らかの理由により移動にためらいのある方々(移動躊躇層)が快適でストレスなく移動を楽しめるサービスの実現に向けて取り組みを進めている。

Universal MaaSでは、出発地から目的地まで移動する際に必要な情報(運賃、運航・運行状況、ルート、スポット情報等)を利用者側に提供すると同時に、利用者が希望する介助内容等を各サービス提供者側に共有することで、多種多様な交通サービスを、ひとつの移動支援サービスに統合していくことを目指している。

今回はUniversal MaaSの「一括サポート手配」「ユニバーサル地図/ナビ」の概要と展望、その試みがいかに国土交通省が推進する「歩行空間ナビ・プロジェクト」とリンクするかなど、さまざまなトピックについてANA経営戦略室 MaaS推進チームの大澤さん、北嶋さん、阿部さん、ANAあきんど 札幌支店のアシスタントマネージャー海老名さんにお話を伺った。


――Universal MaaSに携わっておられるチームの皆さまについて教えてください。

大澤:私がUniversal MaaS に携わるようになったのは、2018年に社内の自発的提案活動「ANAバーチャルハリウッド」に応募したことがきっかけでした。ここで私のプロジェクトが採択され、2019年にANA企画室内にMaaS推進部(現 経営戦略室 MaaS推進チーム)が設立されてからは、本業として精力的に取り組んできました。私はもともとIT出身ということもあって自動運転やパーソナルモビリティに対する関心が深く、さまざまな交通機関を連結させて、出発地から目的地までDoor to Doorでたどり着ける世界を実現させたいと思っていました。
しかし、実際にお客様の目線で取り組みを進めていくうちに、そのような移動手段を利用できない方や、利用にためらいを感じてる方々がたくさんいらっしゃることに気づきました。まずはインフラを整えなければ、全ての人々が自由に移動できないということでUniversal MaaSの発想に至り、今は情報をつなぐところから始めています。

北嶋:私は客室乗務員として客室部にいましたが、2022年の4月から現部署に異動となりました。客室部の業務でも、目に見える障がい・見えない障がいのある方など、さまざまな方々と接する機会がありました。その経験を現在の部署で生かしたり、逆にUniversal MaaS事業での経験が客室乗務員の業務に生かせたりと、相乗効果が得られる部分にやりがいを感じています。
同じ北海道でも今回実証を行った札幌市と旭川市では移動課題が異なる印象を受けます。地域ごとの移動課題を、Universal MaaSという取り組みを通じてどのように解決していくのか、という部分にも興味を持っています。

阿部:私は昨年の10月から現部署に異動となりましたが、それまでは客室乗務員として働いていました。車いすのお客さまに対してどのように手を差し伸べればよいのか、携わることによって逆にケガをさせてしまったらどうしようと考えた時期があり、社内の研修やユニバーサルマナー検定の受験などを通し、ユニバーサルサービスを体得しようと日々取り組んできました。Universal MaaSの事業に取り組み始めてからは、移動に対してハードルを感じている方々とお話をする機会が増えました。そもそも外出自体が困難な方がたくさんいらっしゃって、やっとの思いで空港までご到着された方が飛行機に乗ってくださるのだということも大きな気づきでした。
今後、客室乗務員としての経験を活かし、交通事業者側の課題解決にも取り組みながら、より多くの方が移動しやすい社会を実現したいと思っています。

海老名:私はANAあきんど札幌支店に在籍しており、Universal MaaSの事業に関わらせていただいています。ANAあきんどは、エアライン事業と地域創生事業を柱とした事業展開をしており、札幌市やその他多くの自治体が共通課題として抱えている少子高齢化の問題などにANAあきんどとして何かお手伝いができることがあればという思いで取り組んでおります。最初は何もわからない状態でのスタートでしたが、この事業を通じて、札幌市の現状を知るとともに札幌市のみなさまとの絆を深め、今ではUniversal MaaSの皆さんにも大変心強いパートナーになっていただき、一緒に活動させていただいております。

――ありがとうございました。このUniversal MaaSのお仕事はANA全体の中ではどういった位置づけなのでしょうか。

大澤:そもそも出発空港までお越しになることができない方、移動先の到着空港から先の移動に不安を感じている方々がたくさんいらっしゃいます。そこをしっかりサポートさせていただくことによってDoor to Doorの移動に対する不安やためらいが軽減され、スムーズに移動できるようになる。そうすることで、より多くの方々に飛行機を使っていただける機会が増えます。そういう意味で、ANA全体の中で私たちが携わっているのは、多様なお客さまが利用しやすいサービスを提供させていただくユーザーダイバーシティの部分だといえます。
私たちは、社内外問わず様々な方々と一緒に「誰もが移動をあきらめない世界」の実現を目指して、Universal MaaSプロジェクトを推進しています。

――Door to Doorの移動支援サービス全体に関わるのがUniversal MaaSの業務ということですね。Universal MaaSの提供する具体的なサービスとして「一括サポート手配」「ユニバーサル地図/ナビ」があげられますが、こちらについてご説明いただけますでしょうか。

阿部:「一括サポート手配」については私から説明させていただきます。車いすの方もそうでない方も同じだと思いますが、私たちが旅行する時には電車や飛行機、ホテル等の予約や観光地の情報収集を行いますよね。しかし、介助が必要な方々は、より多くの情報を調べる必要があります。
特に車いすの方が飛行機に乗る際は、車いすのサイズや重さ、電動か手動か、歩行の程度はどのぐらいなのか、など細かい情報を伝える必要があります。電車やバス、タクシーなどの他の交通機関を利用する際も、介助に必要な情報を伝える必要があります。しかし、そもそもそういった依頼・伝達方法が明示されていないケースも多く、それを調べるだけでもとにかく大変で、移動を容易にできないという現状があります。
一方、「一括サポート手配」を使っていただければ、必要な情報を事前にご登録いただくことで、ご利用いただく交通事業者の介助依頼をオンラインにて一括で行える、そんなサービスを構築しています。

――移動に必要なサポートを一括で受けられるサービスということですね。

阿部:そうですね。一般的な経路検索のような感覚で、各交通事業者への介助依頼を一括で手配することができます。車いすであるとか、目が見えないなどの自分の属性情報を入力していただくのですが、交通事業者側はそういった利用者の情報を確認した上で受託手続きをします。利用者が当日、事前に手配した交通機関に向かうと、例えばバス事業者なら手配した時間帯のバスを低床車両に変えたり、タクシー事業者なら利用者の車いすが乗れるサイズのタクシーを手配したりしてサポートします。2023年10月19日から旭川で始めた一般公開実証実験では、当初は主に車いすの方が対象でしたが、2月からは盲導犬を連れた方や、目に見えない障がいのある方など、より幅広い属性の方にご利用していただけるよう改良を重ねております。
例えば、利用者側には「自分は、こういう目に見えない発達障がいがあり移動に不安がある」ということを交通事業者側に申告できる場を、そして事業者には「快くお待ちしております」という返答ができる場をつくることで、利用者は安心感が得られ、今までよりも公共交通機関を利用することへのハードルが下がるのではないでしょうか。そのような仮説をもとに、より多くの方々に使っていただけるよう、利用者・事業者・自治体などが一体となってサービス開発を行っております。

――Universal MaaSは省力化や業務改善にもつながるため事業者側にとってもメリットがありますよね。次に「ユニバーサル地図/ナビ」についてご説明いただけますか?

北嶋:「ユニバーサル地図/ナビ」は、交通事業者がいない徒歩区間でも自律的に移動できるようにと開発されたサービスです。2023年度から、横須賀市・札幌市にて提供が始まりました。
これまで、目的地周辺の施設情報を見たいと思っても、情報が各事業者・施設のウェブサイトなどに点在しているため、探すのに苦労するといった課題がありましたが、「ユニバーサル地図/ナビ」では徒歩区間の経路検索をしながら、自治体などが発信する公式のバリアフリー情報と、ユーザーが集めたバリアフリー情報を同時に確認いただくことができます。
一般的な自治体の情報の場合、施設内に設備が「ある」という情報は目にしますが、「ない」という情報はなかなか目にしません。しかし、利用者からは「設備がないなら、ないことを前提に計画を立てるため、『ない』情報も欲しい」というお声をよくいただくため、その辺りも配慮した掲載を心がけています。
車いすユーザーが利用できるお手洗いはネット上で探せますが、一口に車いすが使えるトイレといっても、横付けで便座に移乗したい人、前向きで止めてから移乗したい人など利用者によって事情が異なるため、トイレ内の設備によって使える場合と使えない場合があります。「ユニバーサル地図/ナビ」では、写真や動画で設備を確認できる機能を実装しており、ユーザー側が集めた写真や動画、口コミなど、利用者目線の情報を同時に閲覧できるのも特徴です。 さらに、「ユニバーサル地図/ナビ」では「点」のスポット情報だけではなく「線」の経路情報を一緒に表示することが可能で、移動ルートを任意にカスタマイズすることもできます。例として、横須賀市さんの場合は、観光課の方々と協力して、商店街を通るおすすめルートを提案して地域経済の活性化を促したり、最短距離でも実際は階段があって進めない場所を避けてエレベーターのあるルートへ誘導したりするなど、自治体だからこそ知り得ているルートを表示させています。

――自治体が発信する情報と、ユーザーの生の声を集めた情報。さらにカスタマイズできる徒歩ルートを表示できるのが特徴というわけですね。しかし、「これがバリアフリールートです」という表示はしていないということでしょうか?

北嶋:人によって何をバリアと感じるかは異なるので、ここがバリアフリールートだと指定するような案内はしていません。表示できるのは最短経路と自治体のおすすめルートですが、他の車いすユーザーの走行ルートも地図上で確認できます。過去の車いすユーザーの走行ルートから、この道は車いすが多く通っているから走行しやすいのかもしれない、と不安軽減につながり行動変容を促すことができると考えています。

――「一括サポート手配」「ユニバーサル地図/ナビ」について、利用者からのご要望や、課題と感じられていることがあれば教えてください。

阿部:「一括サポート手配」についてですが、想像以上に利用者の方々は移動をあきらめてしまっている現状があります。だから私たちでサポートをして、まずは「移動できる」という体験をもっともっとしていただかなければ、こういう取り組みは進まないのではないかと思います。
例えば、旭川市で行った実証実験にご参加いただいた方の中には「バスってこんなに安いのですね」と驚かれていた方もいました。普段は介護タクシーなど値段の高い移動手段を使っていて、そもそもバスを使うという機会がなかったそうです。よってまずは体験していただくことが重要なのですが、車いすの目線ではバスの時刻表が読みにくいなど、事業者側も気づいていないような課題がまだまだあります。今後も課題は出てくると思いますが、利用者の皆様、自治体、事業者で協力して一緒に変えていきたいと思っています。

大澤:バスは安い、じゃあどんどん使ってみよう!という行動変容が起こるのは、バス事業者にとっても良いことですよね。それは事業者側の経済的価値であり、社会的価値でもあると思います。また自治体の施策にもつながっていくでしょう。

北嶋:「ユニバーサル地図/ナビ」の課題としては、情報収集でしょうか。自治体やユーザーの皆さんの力を借りても収集できる情報量には限界があるので、例えばAIやロボットとの連携などが実現できれば、効率的なデータ収集が行えるようになります。
情報の種類でいうと経路の傾斜や幅員、あとは階層の情報の拡充ですね。さらに設備の情報をフロア別に地図上で表現し、活用していくことができれば、利用者にとってより使いやすい地図になると思います。
あとは、移動した先にどのような楽しみがあるか。ネット情報の海の中にはそういった情報が散らばっているため、見つけるのに苦労することもあります。移動先で楽しむための情報まで地図に表示することができれば、利用者の行動変容につながりますし、「移動をあきらめない社会」に近づくのではないかと思います。

――現在、国土交通省では「歩行空間ナビ・プロジェクト」を進めており、大澤さんには本プロジェクトのワーキンググループにも構成員としてご参加いただいています。段差や傾斜、幅員などの情報を扱う「歩行空間ネットワークデータ」のみならず、トイレなどの施設情報もオープンデータ化していこうという施策ですが、本プロジェクトで扱うデータをANAさんのサービスで利用できそうなシーンがあれば教えていただけますでしょうか。また、本プロジェクトでどのようなデータがオープンデータとして公開されることを期待されますか?

大澤:利用できるシーンは非常に多いと思います。データは自治体が登録されると伺っていますが、どういう種類のデータが公開されるのか気になります。ワーキンググループで提示されているような有益なデータであれば、今すぐにでも活用させていただきたいですね。

北嶋:公開されることを期待するデータとしては、施設の画像、一番良いのは動画です。地図を利用するユーザー目線で考えると画像や動画は最も参考になると思います。一方で、情報の鮮度・維持については課題感をもっています。ユニバーサル地図/ナビには、ユーザーが情報管理担当者に対して直接修正依頼する機能が付いているため、オープンデータを活用させていただいた際には、その鮮度維持にも貢献できると思います。

――他にも、本プロジェクトに期待されることなどあれば最後にお聞かせいただけますでしょうか。

大澤:新しいことにどんどんチャレンジしてきたいですね。このUniversal MaaSを通じて様々な自治体や企業、団体、利用者の方々と議論していますが、異なる価値観やモノの見方を相互理解・相互探求することで、新たな発見やワクワク感、有益なサービスが生まれます。ぜひそのような機会を「歩行空間ナビ・プロジェクト」でも設けていただき、Universal MaaSと共に、社会実装を目指した取り組みを進めていきたいです。研究や実証にとどまらず、実際に社会で使われるサービスをつくっていきましょう!

――本日はお忙しい中、ありがとうございました。

※参考
Universal MaaSとは?
https://www.universal-maas.org/about-universal-maas
一括サポート手配とは?
https://www.universal-maas.org/one-stop-support-arrangements
ユニバーサル地図/ナビとは?
https://www.universal-maas.org/service-universal-maps-navigation

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