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札幌市 「車いす冬季移動支援ツール体験会」レポート

札幌市 「車いす冬季移動支援ツール体験会」レポート

2024年2月1日(木)札幌市において、「車いす冬季移動支援ツール体験会」が行われた。札幌市では、市の総合計画である「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン(2022年度~2031年度)」において、今後のまちづくりの重要概念のひとつに「ユニバーサル(共生)」を設定。そこで取り組む施策のひとつとして、車いす等で移動できるバリアフリー経路の情報発信や冬季の移動を支援するツールの活用などを促進することを掲げ、その施策の一環として、冬季の車いす移動に役立つツールの体験会が、札幌市、ANAグループ参加のもと、開催された。

体験会の前半では、参加者が市役所の会議室に集まり、体験会の進め方や使用するツール、本イベントの枠組みのベースとなっている「Universal MaaS~誰もが移動をあきらめない世界へ~」プロジェクトの概要などの説明が行われた。

開会~挨拶~概要説明

最初に、開会の挨拶を述べたのは、札幌市 ユニバーサル推進室長の山内仙才(ひさとし)氏。今回のような街歩きイベント、情報発信の取り組みを、ANAグループによる「誰もが移動をあきらめない社会を実現する」という活動と連携して、行政だけではなく、いろいろな団体、企業の協力を得ながら、官民連携でユニバーサルを実現していきたいと強調した。

次に今回の体験会について説明が行われた。昨年度実施した冬の街歩きの調査結果を踏まえ、冬季の車いす移動に役立つツールの雪上での有用性を検証し、各種ツールの活用に向けた検討材料を得ること、昨年7月からANAグループと行っている「ユニバーサル地図/ナビ」への情報拡充、冬季の移動課題解決に向けた検討を目的として、本体験会を開催したと説明した。

Universal MaaSの取り組み状況について

全日本空輸株式会社 経営戦略室 MaaS推進チームマネージャ 大澤信陽氏

全日本空輸株式会社 経営戦略室 MaaS推進チームマネージャの大澤信陽(のぶあき)氏からは体験会のベースの枠組みとなるUniversal MaaSの取り組みが説明された。Universal MaaS はユニバーサルデザインとMaaSを掛け合わせた造語。障がいや高齢など、何らかの理由で移動をためらう層を「移動躊躇層」と呼び、そうした方々がストレスなく移動を楽しめるようになることを目的としたプロジェクトである。
世界人口における障がい者、高齢者の割合は年々増加しているが、その中で、実際に交通サービス、自治体サービスを受けている人は少ない。この人数を増やせば、社会的な価値だけでなく、航空旅客も増え、経済的な価値も上がる。現在、ANAでも車いす利用者を対象としたさまざまなサービスを提供しているが、車いす利用者である大澤氏の祖母がひ孫に会いに行くのをあきらめたように、「他人に迷惑をかけたくない」「途中で嫌な思いをしたくない」というためらいにより、旅行などの移動をあきらめてしまう方々が多いと言う。祖母がためらう気持ちを乗り越え、ひ孫に会ったときの笑顔を見て、たくさんの人の移動に対する障壁を取り除きたいという思いでこのプロジェクトを推進していると大澤氏は語る。

移動支援ツール紹介

本体験会では、4つの移動支援ツールが提供された。
一つ目は、株式会社JINRIKIのけん引式車椅子補助装置「JINRIKI」。JINNRIKIは、介助者が車いすの前輪を浮かせて「人力車」のようにけん引することで、雪上など悪路の移動を可能にする。雪道での課題は前輪がめり込んでしまうことなので、前輪を持ち上げることで雪上を楽に進むことができる。

二つ目の移動支援ツールとして、特定非営利活動法人北海道ユニバーサルツーリズム推進協議会から提供された「キャスタースキー」が紹介された。キャスタースキーは車いすの前輪を滑らすためのツール。スキー形状で着脱可能なものもあるが、外れやすくなってしまうため、固定式にしている。雪のないところでもこれを着けたまま行けるように、スキー板の下に車輪が出る構造になっている。なお、提供された車いすはタイヤも冬仕様となっている。

三つ目は、特定非営利活動法人カムイ大雪バリアフリー研究所から提供された「快適AQURO」。前輪に大きなタイヤを着けるような仕組みで、雪上での走行安定性が上がるツール。

最後は、札幌福祉医療器株式会社から提供された「ホイールブレード」。キャスタースキーに似ており、スキー板は着脱式。雪のないところでは外して使用する。

街歩き ~ 移動支援ツール体験 ~

今回提供された各種移動支援ツールの街中での体験が、3グループに分かれて行われた。

JINRIKIを最初に体験したグループでは、市役所庁舎の車寄せのあたりで段差の乗り越え方を習得。段差に対して、車いすを直角にして入っていくことがポイントとの説明を受けた。その後、大通公園の一角に移動し、グループごとにそれぞれの移動支援ツールを体験。

慣れない車いすに乗って、雪上で手を使って漕いでみると、一様に腕が疲れる、目線の低さを感じたという意見が聞かれた。車いすでの移動の困難さを体験しつつ、それぞれの移動支援ツールの有用性も感じられた。どのツールが特に優れているということではなく、利用シーンに応じて使い分けていくのが重要という意見が多かった。

車いすを後ろから押して動かすには非常に大きな力を必要とするが、前輪を浮かせ、てこの原理を利用して前から引っ張ると小さな力で車いすを動かすことができることを体感。

平らな雪上だけではなく、JINRIKIを使用して、雪が盛り上がった傾斜のきつい場所でも通行できることを体験。冬仕様のタイヤ(スタッドレス)は、滑りにくいと好評だった。

車いすの移動と言っても、それぞれの人で身のこなしや体力に差があり、ある人にとっては登れない傾斜でも、別の人にとっては軽々登っていくことができるなど、何がバリアになるかは人によって異なり、一概に定義ができないという共通の認識が生まれた。

その後、周辺の歩道を通って街歩きを体験。

札幌の中心地はロードヒーティングが導入されている場所が多く、雪のあるところ、ないところがはっきり分かれている。もちろん、ロードヒーティングが導入されているところは通行しやすくなっているが、入っていないところにはかなりの量の雪が積もっている。特にその境目は段差や傾斜がきつい場所が多く、通行しにくい。また、横断歩道にその境目が存在するところもあり、信号と路面の両方に気を遣いながら通行しなければならない。

JINRIKIによる階段の上り下りの体験も行われた。

振り返り ~ 移動支援ツール体験のまとめ ~

街中での移動支援ツールの体験を終えたのち、各グループでディスカッションを行い、「ツール利用で改善された点」、「支援ツールへの期待」、「冬季の移動円滑化のアイデア」の項目ごとに意見をまとめて発表を行った。

会議室でのディスカッションの様子

●ツール利用で改善された点
ツールの使用感を含めて、多くの意見が出された。
「移動シーンに応じてツールの選択が変わってくるが、自走であればキャスタースキーやAQURO、介助者がいる場合はJINRIKIが適していそう」「JINRIKIを使うと、雪が積もっているところでも、介助者とともにいろいろな場所に行けそう」「車いす利用者だけではなく、介助者側の負担が軽減されることで、安心感に繋がり、精神的にもプラスに働きそう」などである。ロードヒーティングや少し雪が積もっている程度の場所であれば、スタッドレスタイヤに交換するだけで、介助者がいなくてもある程度行けるのではないかなどの意見があった。

また、実際の車いす利用者である参加者からは、「AQUROは前への推進力があり魅力的だが、自家用車での移動を考えると、一人で車に載せるのが難しそう。使い勝手を考えるとキャスタースキーや着脱式のホイールブレードを選択するかもしれない」という意見があった。

ツールごとにいろいろメリットがあったが、総じてツールを装着しない車いすと比べ、「前輪が雪に埋まらなくなり、進みやすくなった」「支援ツールを使うことで、乗る人、介助者の負担が減り、街歩きの中で景色を楽しめるようになった」という意見もあった。

●支援ツールへの期待
「支援ツールはお試しで購入できるような金額ではないため、1週間無料レンタルなどで試せる仕組みがあると良い」「コンパクト化、持ち運びのしやすさが改善できたら良い」「乗っているときの振動の改善」「交差点等での巻き込み事故防止のため、車いすがここにいるということを示すポール等があると良い」さらに、「冬季間の車いすが走行したログを収集できないか」「レンタルを前提とし、どこでも借りられて、どこへでも返せると便利」「ユニバーサル地図/ナビで貸し出し場所が確認できると良い」という意見があった。

さらに、頑張って漕いでいるときにどうしても助けてほしいときがあったり、逆に押してもらって申し訳ないときもあったりするため、本当に困っているときに助けてもらえるように、周囲の方々に困っていることを表す合図があると良いという意見もあった。

●冬季の移動円滑化のアイデア
「完全にバリアをなくす整備は難しく、地域側での障がい者を受け入れる意識が重要」「情報がないとそもそもそこに行こうという意識に至らずあきらめてしまうため、車いす利用者にとって必要な情報を事前に提供することが必要。例えば、ロードヒーティングがどこにあるのかなど、夏と冬で路面状態が変わるため、季節に応じた情報を入手できると良い」「介助者が転倒することもあるため、介助者にとって必要な情報も提供できると良い」といった意見が出された。

グループでの意見をまとめたシート

最後に、札幌市ユニバーサル推進室 山内室長が閉会の挨拶に立った。自身が今回、冬の車いすに初めて乗ったり押したりしてみたうえで、自分で体験してみないと相手の気持ちもわからず、車いす利用者の大変さとともに、介助側の大変さも痛感したと語った。ユニバーサル推進室は今年度立ち上がったばかりで、テーマは非常に広く市だけですべてを実施するのは難しいという。官民連携することで多角的に施策を展開できるとあらためて感じるとともに、これからも多くの皆さんのご協力を得ながら、いろいろなアイデアにつなげていきたいと締めくくった。

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