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東洋大学 歩行空間ネットワークデータを題材にオープンデータと歩行者移動支援の意義を学ぶ

東洋大学 歩行空間ネットワークデータを題材にオープンデータと歩行者移動支援の意義を学ぶ

東洋大学情報連携学部(以下、INIAD)では、デジタル技術を軸に、社会のさまざまな人々と連携しながら課題解決を行う「情報連携力」を身に付け、社会を変革できる人材育成を目指した実践教育を行っている。こうしたことから毎年、入学してきた1年生を対象に、国土交通省がデータ整備仕様を策定する「歩行空間ネットワークデータ」を題材とした講義を実施している。本講義は、オープンデータの意義や歩行空間ネットワークデータの概要等を座学で学んだ後、実際にチームで役割分担をしながら、キャンパス周辺の道路のバリアを調査し、歩行空間ネットワークデータを作成・更新する実習を行う構成となっている。
本記事の前半では、昨年5月から6月にかけて実施された、INIADにおける歩行空間ネットワークデータに関する講義内容を紹介し、後半では、この講義に実際に携わられた、東洋大学 情報連携学部の金講師に伺ったお話を紹介する。

歩行空間ネットワークデータを学ぶ(座学)

情報連携学概論は、INIADに入学した学生が必ず受講する講義であり、「デジタル技術を軸とした連携」の考え方を学ぶための講義である。この講義における「オープンデータ」に関する授業の一環として、入学して間もない1年生約300人が、INIADホールにおいて、歩行空間ネットワークデータを学ぶための座学での授業を受講した。

最初のパートでは、坂村健学部長が、公共交通オープンデータをはじめとした国内外の事例紹介を交えながら、オープンデータの意義を解説した。さらに、デジタル技術を活用した歩行者移動支援の実現に向け、国土交通省が中心となり歩行空間ネットワークデータの仕様策定やオープンデータ化が推進されてきたことなどが解説された。

このような、歩行空間ネットワークデータのコンセプトの解説の後、次のパートでは、実際にデータ整備に携わる実務家が、歩行空間ネットワークデータの具体的な内容を、さらに詳しく説明した。歩行空間ネットワークデータが、ノードとリンクで構成されていること、リンクには段差・幅員・勾配などの属性があり、それが車いすやベビーカー利用者の移動に役立つデータであるということ。さらに、このデータを利用することによって、現在地から目的地までのルート案内が可能となり、例えば、健常者であれば、最短のルートが案内されるが、車いす利用者の場合は、階段やエスカレータを避けたり大きな段差などを避けたりするために、多少遠回りになっても、車いすが通れるルートが案内されるといったサービスイメージも伝えられた。

その後、歩行空間ネットワークデータ整備仕様、歩行空間ネットワークデータの作成の仕方、注意点などが説明された。例えば、中央線がある2車線の道路では道路の両側にリンク(線)を配置し、車線も歩道もない道路では真ん中に1本リンク(線)を配置すること、あるいはカーブでは必要に応じてリンクを分割してカーブを的確に表現することなど、データを作成するための細かな作成方法やルールが教えられた。

歩行空間ネットワークデータ作成の実習

歩行空間ネットワークデータの座学による講義を受講後、いくつかの教室に分かれて歩行空間ネットワークデータを作成する実習が4人程度を1チームとして行われた。
歩行空間ネットワークデータ作成の実習の冒頭に、歩行空間ネットワークデータを作成するための「歩行空間ネットワークデータ整備システム」の操作に関して説明された。
本実習では、すでに作成されている赤羽台キャンパス周辺の歩行空間ネットワークデータを使用し、このデータでまだ整備がされていない細かな道路に新たにノードやリンクを追加したり、既存のリンクの属性等で修正が必要な箇所を編集したりするといった形でデータを作成・更新した。

ブランチ※を作成し、データ編集の準備ができたら、実際にキャンパス周辺の道路を歩いて調査し、調査した内容に基いてデータの作成、更新を行った。チームごとに決められたエリアのデータ作成・更新が終了したのち、実施した内容をまとめて発表を行った。

※本システムでは、メインのデータを直接編集していくのではなく、メインのデータをコピーした「ブランチ」を作成し、それに対して修正を行う仕組みとなっているため、そのブランチを作成する操作を行った。

歩行空間ネットワークデータを題材にした講義について

この講義に実際に携わられた、INIADの金講師にお話を伺った。

――どのような講義の中で、歩行空間ネットワークデータを題材としているのですか?

INIADでは、情報連携学部の名が示すとおり、「情報」と「連携」を重視しています。この「連携」のための力を育む目的で、情報連携基礎実習という講義を実施しているのですが、ここでは1年生全員が、いわば基礎ゼミのような形態で、少人数でのクラスに分かれて、グループワークを行なっています。歩行空間ネットワークデータの講義は、この講義の題材として扱っています。

――歩行空間ネットワークデータはバリアフリーやアクセシビリティを教えるための教材としてどのように有用だと考えられますか?

講義は4週間にかけて実施していて、歩行空間ネットワークデータの説明から始まり、その後、チームに分かれて、赤羽台キャンパス周辺の歩行空間ネットワークデータを作成します。実際に学生がフィールド調査を行い、調査した内容に基づいてデータを作成します。最後に、チームごとに実施した内容や作成したデータについて発表します。学生たちはデータの作成においては、普段自分たちが通っている道における、あまり気づかないバリアフリーやアクセシビリティに関する問題点を、当事者の視点で見つめ直す必要があります。この過程での「気付き」や「学び」も多くあり、歩行空間ネットワークデータはアクセシビリティの学習教材としてはとても実践的で有用だと思います。

――同じく、オープンデータに関する教材としてどのように有用だと考えられますか?

オープンデータと一言に言っても、さまざまな種類のデータがあります。学生からすると、座学の講義だけでは具体的にイメージがわきません。実習の中で、例えば、歩行空間ネットワークデータの整備仕様書を読んだり、フィールド調査を行いデータを作成したりする中で、オープンデータというものの理解が深まるという効果があると思います。
また、この教材は日常生活に欠かせない「移動」に必要なデータを扱っており、このデータを作成すると、別の誰かがそのデータを利用しさまざまなサービスを生み出すことができることを実感できます。こうして、オープンデータのコンセプトやメリットを理解し身につけることができるようになっていると思います。

――本講義を契機に、歩行空間ネットワークデータやオープンデータに関心を持つ学生はいましたか?

はい、このような講義を通じて、歩行空間ネットワークデータやオープンデータに関心をもつ学生さんも多いです。
以前私が指導に関わったINIADの卒業生は、車椅子を利用する当事者なのですが、1年生のときのバリアフリーマップの実習でデータを整備することの大変さを知り、もっと簡単にバリアフリーデータを集められないかという観点で、AIによる画像認識技術を用いてデータを集めるツールの構築に取り組みました。バリアフリー情報の中で特にトイレの情報が重要なのですが、外出する際は必ず事前に利用可能なトイレを調べる必要があるため、バリアフリートイレの情報を簡単に収集・共有するためのアプリを作成しました。具体的には、トイレの写真を撮影し、写真の中に写っているバリアフリーの設備等の情報を自動的に抽出する仕組みの構築です。
他にも、ボランティアユーザによる歩行空間ネットワークデータの作成支援をテーマにした学生さんもいます。AIによる画像認識技術を用いて、ボランティアユーザの投稿写真をもとに、たとえば信号の有無や横断歩道の有無、手すりの有無を検出する検討を行っていました。

――本講義を契機に、バリアフリー等の地方行政へ関心を持つ学生はいましたか?

本学部から自治体に就職する学生もいます。大学の授業や公共交通関係のオープンデータチャレンジに参加し、オープンデータやシビックテックに興味を持ち、在学中に富山県の新型コロナ感染症対策サイトを構築し、公開した学生さんもいます。彼は、その実績を活かし、今は自治体のデジタルサービス部門に就職しています。

先程お話しした、バリアフリートイレの情報を抽出するためのアプリを作った学生も、1年生のときにこの実習を通してデータ整備の大変さや課題点について学び、行政によるバリアフリートイレのデータ整備に役立てたいというモチベーションからアプリを作成したと語っていました。

――講義を受けた学生の印象はどうでしたか?

最初はデータを入力するためのシステムに慣れるのに時間がかかるのではないかと懸念していましたが、皆さん意外とすんなり使いこなしていて、調査から戻ってきてすぐにデータを入力することができていたことが印象に残っています。
また、実習の最後に実施した発表では、今後の改善に繋がるような良い提案がありました。例えば、歩行空間ネットワークデータの属性に関して、勾配は緩やかなものの、距離が長いと車椅子やベビーカーの利用者には負担が大きいため、勾配だけでなく、距離も入力できると良いのではないかという提案です。他にも近所の小学校の前の道幅が狭いところがあり、放課後は生徒が通り混み合うため、その時間帯を入力できると良いのではないかという提案もありました。

学生から見ても、単に歩行空間ネットワークデータを学ぶだけではなく、実際にデータに触れることで、こうした属性があった方がより良くなるといった気付きがあり、課題を自分で発見し深掘りすることができる学生もそれなりにいて、そうした点でも役立つ教材だったと思います。

――歩行空間ネットワークデータの仕様や用語について学生は理解できていましたか?

ほとんどの学生が、歩行空間ネットワークデータを特に迷うことなく作れていたと思います。例えば、縦断勾配とか普段では使わない言葉でも、特に質問もなかったように思いますが、「ちょっと難しい言葉だね」と言いながら、ネットで自分達で調べながら、どんなデータを集めれば良いのか特段迷わずに理解していたように思います。

――本日はありがとうございました

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