取材記事

「東京ステーションナビ」が支援する、まちづくり・エリアマネジメント活動のDX

「東京ステーションナビ」が支援する、まちづくり・エリアマネジメント活動のDX

JR東日本グループにおける鉄道技術に関する総合建設コンサルタンツとして、調査・計画・測量、土木設計、開発・環境、建築、ICT関連、運輸計画、機械設備 設計、電気設計、工事施工技術、土地調査等の業務に携わるJR東日本コンサルタンツ。
JR東日本コンサルタンツは歩行空間DX研究会のワーキンググループのみならず、国土交通省が主導する高精度測位社会プロジェクトや日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」に参画。駅とまちをつなぎ、エリアマネジメントの更なる高度化を目指すための取り組みを精力的に進めている。

同社は2020年8月に迷いやすく混雑しやすい東京駅の移動をサポートする「東京ステーションナビ」の本格運用を開始。本アプリは東京駅のショップや施設の情報を提供し、そこまでのルートを案内して、東京駅での移動をスムーズにするための総合案内サービスを提供するもので、「空きロッカー表示」「マイスポット登録」「屋内測位」など、さまざまな機能が搭載されている。

「東京ステーションナビ」に実装されたサービスは歩行空間DX研究会の取り組みとどのようにリンクするのか。JR東日本コンサルタンツICT事業本部 デジタルツイン事業部門 マーケティングサービスユニット課長の栗原一行さんにお話を伺った。

――JR東日本全体の中での御社の位置づけ、また栗原さん自身のお仕事の内容についてお聞かせいただけますでしょうか。

栗原:JR東日本コンサルタンツはJR東日本の100%子会社です。鉄道技術に関する総合建設コンサルタンツとして幅広い業務を行っています。私が所属しているICT事業本部は鉄道空間におけるGIS(地理情報システム)、地理空間情報、BIM(Building Information Modeling)、クラウド、モバイルサービスなどICTを活用してお客様サービスの向上や鉄道業務の効率化を支援しています。
私自身は中途入社で、縁があってこのICT事業本部に入ってきて、そろそろ10年は経つ頃でしょうか。その中で図面をGIS化して関連するデータを取り扱う仕事をしてきましたが、主に駅の構内図をどう活用するかということを一番の課題として取り組んできました。

東京駅を快適に変える案内アプリ「東京ステーションナビ」

――現在は具体的にどういったお仕事に関わっておられますか?

栗原:今は「東京ステーションナビ」という一般のお客さま向けのナビゲーションアプリを担当しています。広くて複雑な東京駅の中で自分の場所をわかりやすくスマホに表示し、目的地までの最適なルートを提案してくれる総合案内サービスで、2020年8月にリリースしました。構想自体は2018年からあったので、5年ほどこのプロジェクトに関わっていることになります。
当然、その中で歩行空間ネットワークデータを活用しています。

――駅構内における最適な移動ルートの提案ということですが、その中で障がいをお持ちの方向けの情報発信もされているのでしょうか?

栗原:現在、当社の著作物としてJR東日本の全駅の構内図を整備しているところですが、その中にバリアフリー経路を表示しています。当然自社だけでその情報を整備できませんので、JR東日本本社から情報をいただきながらバリアフリー経路を維持・更新しています。このような形で整備した駅構内図をJR東日本の公式サイトやJR東日本アプリに掲載していただくことを通じて、障がいをお持ちの方向けの情報も発信を支援しています。
また、東京ステーションナビにおいてはあくまで段差を解消したルート「バリアフリー段差解消ルート」という言い方で、移動しやすいルートのご案内を実現しています。東京ステーションナビは屋内測位機能がありますので、自分の位置から目的地まで段差がなく、スロープやエレベータを使えるルートを表示するということです。
以前、わが社は国土地理院が担当した3次元総プロ(国土交通省総合技術開発プロジェクト「3次元地理空間情報を活用した安全・安心・快適な社会実現のための技術開発」 プロジェクト)に関連する業務を受託し、駅構内図の整備作成で培ったノウハウを屋内地図の仕様に反映するという取り組みを行いました。その業務の中で視覚障がい者団体や車いすの方々にヒアリングをした経験があるのですが、駅構内の段差をどうお伝えするかというのは私自身ずっと考えてきたことでもありました。

栗原:最短経路検索では階段・エスカレーターを通るルートが出てきますが、画面にある車いすのボタンを押すと、段差を回避してスロープを通るルートが表示されます。これが東京ステーションナビのバリアフリー段差解消ルートです。こうした取り組みを3年間ずっと続けてきた結果だと思いますが、この東京ステーションナビを導入してくださっている株式会社JR東日本クロスステーションさんと一緒に東京都から「福祉のまちづくり功労者に対する知事感謝状」をいただきました(2023年12月)。
このバリアフリー段差解消ルート検索機能は実際かなり使われていて、一か月に1000回ほど利用されているようです。利用者の中には車いすの方だけでなく、ベビーカーや大きなキャリーケースを持ったような方もたくさんいらっしゃいますよね。そうした方にもこのバリアフリー段差解消ルート検索機能が貢献できる部分は大きいと思います。

より利便性の高い統合的情報発信ツールを目指して

――そもそも、どういう経緯で「東京ステーションナビ」が作られることになったのでしょうか?

栗原:JR東日本クロスステーションさんは、駅構内のさまざまな店舗を管理運営しているのですが、駅の中における移動の困難さがお客さまサービスの低下につながっているのではないかという同社の指摘がキッカケでこのアプリが生まれました。つまり、駅の中で道に迷わなければ、お客さまが安心して駅の中を移動しながら駅という空間を楽しむことができる(いろいろなサービスをご利用いただくことが可能になる)ということです。駅では乗り換えなどで限られた時間の中で移動していらっしゃるお客さまも多いわけですが、たとえば発車まで5分しか時間がないとしても、「5分あればこのお店に行ける」ということがわかれば、お買い物を楽しんでいただくことができるわけです。

―駅構内におけるスムーズな移動を目指した結果、それが消費を促すことにつながっているというわけですね。これを他の駅や施設に展開していく計画はあるのでしょうか。

栗原:はい。利用者の方の行動を考えれば駅だけで閉じているのは不自然で、駅の周辺の施設の回遊を促すことも重要です。駅の商業施設で消費してほしいのに、駅の周辺の情報も検索できるようになってしまうと、駅の外に行ってしまうのはどうかという議論もありました。このアプリはリリース当初は、JR東日本の敷地だけを対象にしていましたが、今は八重洲地下街さん、東京ミッドタウン八重洲さん、ヤンマー東京さん、また丸ビルさん、新丸ビルさん、KITTEさん、大手町タワーさんなど駅の周辺の施設にもご参加いただいています。
東京駅エリアに関しては、このように徐々に周りの施設についても情報を収集・掲載していくという取り組みが進んでいますが、やはりこうした取り組みを他の駅でも実現したいということで、乗り換えが多い大規模な駅を中心に営業活動を進めているところです。ちなみに品川・高輪ゲートウェイエリアに関してはすでに東京ステーションナビで駅構内マップや改札内外の店舗情報が閲覧可能になっています。

――障がい者の移動支援だけでは事業としてなかなか成り立ちにくいと思いますが、そういう商業施設の情報発信などと組み合わせることによって事業として成り立つし、発展性もあるということですね。

栗原:やはりサーバやアプリの維持には結構な費用がかかるので、そうでなければ成り立たないと思いますね。そういう意味で八重洲地下街さんをはじめとする商業施設の管理者さんにご参加・ご協力いただけたことの恩恵は大きいです。

――そのように規模が広がっていくと、駅周辺のデータがオープンデータとして提供されることの意義は大きいですね。

栗原:おっしゃる通りで、データがあるとないとでは大違いだと思います。たとえば東京駅エリアに関しても駅構内のデータは自分たちで作りましたが、屋外の経路データに関しては公開されているもの(歩行空間ネットワークデータ(東京駅周辺))を取り込ませていただいています。
ワーキンググループでも発言させていただきましたが、完全なデータである必要はないと思います。このアプリの中で活用しているのは基本的に図形のデータ、あと階段などの属性情報は使っていますが、それだけなんですね。それを地図データベースに組み込んで、こちらでネットワークデータとして必要な情報を付加して活用する。各建物の中のデータは各施設の管理者さんと相談しながら作ればいいので、そういう屋内のネットワークデータと屋外のオープンデータ化されたネットワークデータをつなげてあげれば、アプリケーションとしては十分使えるものになると思います。
屋外のバリアフリー施設を表示するような仕組みも作りたいと思っていますが、これはやはりオープンデータがなければ進められません。自社だけで整備するのは大変なためです。ぜひ公共的な空間、屋外空間に関するデータ整備を進めていただきたいです。東京ステーションナビとしてはそれを取り込んで新しいサービスにつなげていきたいと考えています。
先日の第1回「歩行空間DX研究会シンポジウム」で、坂村先生がオープンデータに関して「まずはデータを公開することが重要で、公開されたデータをどう使うかは使う人が考えるべき」だという旨の発言をされていましたが、その通りだと思いますね。行政として整備したものをまずは公開し、それをどう使うかを考えるのは私たちのような事業者の役目だと思います。

――最後になりますが、国交省のほこナビ・プロジェクトに今後期待するものがあればお聞かせください。

栗原:私が以前、国交省に屋内のネットワークデータについてお聞きしたときは、屋内については今後の検討課題とおっしゃっていましたが、駅や商業ビルのような一般の方が通れるような屋内空間についても、たとえばノードとリンクはこう引いたらいいというガイドラインのようなものがあれば、データ整備がしやすくなるのではないかと思います。そういう指針があれば、それを参考にしてデータが作られると思います。足りない部分は自分たちでカスタマイズしながら進めることができると思います。
もちろんほこナビ・プロジェクトの中でそういう屋内空間におけるデータ整備仕様検討のマイルストーンが示されていることは承知していますが、そこを前倒しして検討していただけるとありがたいですね。現在のデータ整備仕様においても、データ作成して公開する自治体を増やしていく。その試みもぜひ継続していっていただきたいと思います。

――ぜひ、今後もWGでご意見いただければありがたいです。本日はお忙しい中ありがとうございました。

※ 記事の内容は取材時点の情報です。

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