取材記事

家族への愛情から生まれた、乳幼児とのお出かけを支援する「ママパパマップ」

家族への愛情から生まれた、乳幼児とのお出かけを支援する「ママパパマップ」

乳幼児を連れての移動は困難が多い。おむつやタオルなど所持品が多くなりがちなうえ、なにより外出先の授乳室やおむつ交換台の有無は深刻な問題だ。初めて訪れる場所では下調べが重要になってくるが、その手間が負担になって、結局いつも決まった場所にしか外出しない、という人も少なくないだろう。

そんな子育て中のお出かけを支援しようと、授乳室やおむつ交換台を持つ施設を簡単に調べられるスマホアプリ「ママパパマップ」を運営しているのがコドモト株式会社だ。

アプリは2016年のリリースから現在までに135万ダウンロードを達成。アクティブユーザーは月間約14万人にも上るという。昨年(2023年)の出生数が約72万人であることから考えても、当アプリの普及率の高さが伝わってくる。人気の理由はどこにあるのか、コドモト株式会社の代表取締役・村石健さんに話を伺った。

ママパパマップ:https://mamamap.jp

ユーザーの手でスポット情報をアップデートしていける「ママパパマップ」

――「ママパパマップ」のサービスについて教えてください。

村石さん:「ママパパマップ」は日本中の授乳室やおむつ交換台があるスポット情報を検索できる無料アプリです。現在登録されているスポットは10万件ほどで、起動すればすぐに現在地周辺の情報が表示されるほか、駅名やエリア名、施設名からも検索できるので、お出かけ前の下調べにも活用していただけます。

とくに「調乳用のお湯がある」「ベビーカーのままトイレに入れる」「体重計がある」「男性可」など、ユーザーが気になるだろう細かな検索項目を設定してスポットを絞り込みできるようにした点が好評をいただいているようです。

スポットの情報については、各自治体のオープンデータなどを活用して運営側で登録するだけでなく、ユーザーが新規で登録することも可能です。使い心地を評価できる機能のほか、「清潔で快適だった」「暗かった」、商業施設であれば「少し騒がしい」など、口コミや画像を投稿し、現場のリアルな状況をほかのユーザーと共有できることも特徴ですね。そういった口コミは現在で23万件ほど、画像も同規模で投稿されているような状況です。

「ママパパマップ」アプリ画面。「いいね」ボタンや口コミの投稿で利用者たちが情報を共有している。

――ユーザーもスポットを登録できるんですね。第三者からの情報提供ということで、確認作業が大変なのではないかと想像していますが、実際はいかがですか?

村石さん:いえ、じつは新規登録に関しては、基本的にユーザーの皆さんの節度にお任せしています。データで見ていても、いたずらや虚偽の登録はほぼない状況ですので。驚いたのは、オープン前の八重洲ミッドタウンや麻布台ヒルズといった商業施設の情報もいち早く登録されていたこと。子育てという分野には、同じように困っている人を助けたいと積極的に情報共有してくださる方がとても多く、秩序が保たれているのを感じています。

ただ一応、修正依頼に関しては目視チェックしています。なかには認識の相違で修正合戦のような状態になってしまうケースもありますので。そうなったときは私が該当の施設に電話して確認をとってから承認、という流れです。

とくに授乳室は、お湯があったのに機械の都合でなくなったとか、コロナ禍で体重計を撤去したとか、環境が流動的です。運営だけでは手が回り切りませんので、そういったリアルタイムの情報がユーザーから上がってくるのは大変ありがたいです。

――皆さんの良心で作られているアプリということですね。実際にアプリを開いてみると、地図に表示されるスポットのアイコンの大きさに違いがあります。アイコンが目立っているほどユーザーからの評判がいいということでしょうか?

村石さん:そうですね。授乳室って運用にすごくお金がかかるんです。本来テナントを入れれば年間何百万、何千万円もの収入が見込めるにもかかわらず、わざわざ授乳室を作ってくれている施設にお客さんが流れるようにしたいなと考えた末の工夫です。快適な授乳室を提供するとお客さんも増えるよね、という世の中にしたいという思いもあり、優先して表示するようなロジックにしました。

アプリ画面。評判が良いスポットほどアイコンのサイズが大きくなっていく。

「ママパパマップ」開発のきっかけは妻の一言

――「ママパパマップ」を作ろうと考えたきっかけを教えてください。

村石さん:コドモト株式会社は「ママパパマップ」の開発ありきで設立した会社になります。きっかけは妻の声でした。

1人目の子供が0歳の頃、仕事から帰ってきて妻に「今日は何してたの?」と聞いたところ「イオンに行っていた」と答えがあったのですが、それが何度も続いて。なぜイオンにしか行かないのかと疑問をぶつけると、「授乳室があるから」と言うんです。つまり、授乳室の存在に縛られて自由に移動ができていない。家にいる時間が長いのに、たまに外出するのがイオンだけというのはかわいそうだし、不健全な感じがしたんですね。

同時期に僕のほうでも、外で子供の面倒を見ているときにオムツ交換台に行ったら、男性NGの場所だった、ということがありました。そのときはどうしようと慌てるばかりでしたが、子供が排泄の不快感で泣いていたことへの罪悪感が強すぎてトラウマのような思い出になっています。その後、男性が利用可能なおむつ交換台をインターネットで検索しましたが、まともな情報がほとんど出てこなくて。その二つの出来事だけでも、早急に「ママパパマップ」のようなアプリが必要だと確信して、すぐに開発に着手しました。

――同じような経験をしながら子育てしている人は多いと思います。

村石さん:そういう経緯があって、「ママパパマップ」はとくに同じような産後13か月くらいまでの子供を育てるお母さん、お父さんをユーザーとして想定しています。第一子のときは皆さん、授乳やオムツ交換に対して非常に過敏になっています。慣れてくればオムツ交換に少しくらい時間がかかっても大丈夫と経験則で行動できますが、最初は1秒でも早くオムツを変えてあげたい、肌が荒れたらどうしようと不安でいっぱいだと思うんです。そんなセンシティブなタイミングだからこそ、安心してお出かけできる「ママパパマップ」のようなアプリは必要なのではないかと信じて運営しています。

いずれはアプリがなくてもお出かけできる未来に

――順調にユーザーを増やしている「ママパパマップ」ですが、運用するうえでの課題はありますか?

村石さん:システム開発についてはいったん落ち着いてきているので、これからは会社としてしっかり利益を出して自走できる体制を整えたいところです。

利益といえば、「ママパパマップ」は会員登録を必須にしていなくて、ムダな手間がなく、いきなり画像の投稿やコメントができるようになっています。やはり手軽であるほど情報は集まりやすいので。そのおかげもあってか、ありがたいことにアクティブユーザー数も過去最高がずっと続いている状態です。ただ一方で、ユーザーが増えたおかげでコストも過去最高が続いているのですが(笑)皆さんの良心で成り立っている以上、課金制にはしたくないという思いがあります。

――「ママパパマップ」に関して、将来、どのようなサービスにしていきたいと考えられていますか? また、どのような世の中になっていることを期待しますか?

村石さん:海外を視察することもありますが、授乳室の設備や綺麗さを見れば、日本はやはり世界でもトップクラス。変な人が入ってこないようにカーテンよりも鍵付きがいいとか、パパが利用できる場所を増やしてほしいとか、そういった需要も少しずつ反映されていくといいなと。新しく建てられる施設にはたいてい授乳室やオムツ交換台が設置されていますし、今後もさらに充実していくのではないかと思います。

公衆トイレって外を歩いてればすぐ見つかるじゃないですか。授乳室やオムツ交換台もそうなるといいですね。「ママパパマップ」を運営してはいますが、いずれはアプリがなくてもお出かけできる世界になることが、もちろん一番だと考えています。

本当に利用者の求めるオープンデータを

――ここからは国土交通省が推進する歩行空間ナビ・プロジェクトに関してお聞きします。「ママパパマップ」においては既にさまざまな自治体のオープンデータを活用されているとのことでしたが、本プロジェクトで扱うデータ(歩行空間ネットワークデータ・施設データ等)がオープンデータとして公開された場合、そのデータを「ママパパマップ」で活用する可能性はありますか?

村石さん:確実にあると思います。やはり情報の精度は常に課題としてあるので、国交省お墨付きの情報であればぜひ活用したいです。

――とくにどのようなデータが公開されることを期待しますか?

村石さん:オープンデータに目を向けてもらえることは本当にありがたいです。その気持ちを前提に聞いていただければありがたいのですが、オープンデータっていう考えでいくと、現状では民間が求めているものと行政が提供してくれようとしているものとで、情報が必ずしもかみ合ってないことがあるような気がしています。

たとえばの話ですが、トイレにある段差が何ミリという情報があるとして、本当にこちら側が欲しい情報かというと必ずしもそうではなくて。言ってしまえば段差の有無だけで良い場合もあったりするんです。頑張って詳細に情報を集めてくれているけど、それは本当に必要なのかという情報がすごく多い印象がありました。

オープンデータを整備するのはすごくコストがかかると思います。重要なのは、そのコストに見合う利用者がいるのかどうかではないでしょうか。誰も活用していないデータにコストをかけるのはもったいない。最初から完璧を目指すのではなく、まずは広範囲のざっくりとした情報を公開してみて、ニーズは何かを分析してから、深堀りしたデータ収集に移ってみてもいいように感じています。

――貴重なご意見をありがとうございます。そのほかに、本プロジェクトに期待されることがあればお聞かせください。

各自治体が提供しているオープンデータですが、今はフォーマットが違いすぎて、活用に工夫が必要な状態です。国交省という大きな組織に主導していただいて、フォーマットを統一してもらえたらありがたいですね。私がシステム側の人間で、テクノロジーで負担を減らすことを重視しているということもあるのですが、共通フォーマットで、データもAPIを叩けばプログラムから自動的に取得できるというような状態が、利用者側にとって使いやすいオープンデータなのかなと考えています。

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